当たり前のことだが日本語を母語とし、日本語で作詞し、歌唱するものにとって、英語をはじめとする外国語の発音は大変に難しい。
なぜ「大変に」難しいのか。日本語を母語とする者が外国語で歌を歌ったりラップしたりする場合、一つではなく二つの困難が付きまとうからである。ここでは最もポピュラーな外国語である英語を例に説明する。一つは単純にLとR、語尾のnとngなどの発音の違いや、v、thなど日本語にない音を発声するのが難しいということ。まあ、これは英会話と同様。実はもう一つの困難の方がより複雑な構造になっていて真に厄介である。即ち、よしんば完璧もしくは完璧に近い英語の発音が出来たとしても、それが他の日本語部分の発音とギャップがありすぎて、妙な違和感になり耳障りになってしまったりするということ。あるよーこれ。
この英語発音ギャップ問題を解決するために、アーティストは一人一人自分なりの工夫をしなければならない。以下、その一例を羅列してみることにする。
1.英語を使わないようにする。 − これは最も有効な解決策の一つ。但し脚韻や固有名詞の関係上どうしても英語を使わなくてはならないときがあるのでポピュラー音楽の作詞においては実際には困難。
2.日本語として通じる英語だけを使用する。 − パソコン、テレビ、ラジオ、スポーツ等等ほぼ日本語化された英語だけを使用するのも有効だ。但し、ラブ・ミー・テンダーなどのリリックを歌うときは細心の注意が必要だ。なぜなら"Love me tender" だと「優しく愛して」になるが、"Rub me tender"だと「優しくこすって」になってしまい、意図せずよりセクシーに聞こえてしまうからだ。よってこのやり方は意外と英語の素養が必要とされるテクニックといえる。
3.バイリンガルをアピールする。 − 「幼少期は父の仕事の関係で海外で過ごし、本場の音楽エンターテイメントに触れる。その後帰国し、18歳にして早くもOOデビューし・・・」的なアーティストプロフィールに見覚えのある方、挙手を願います。・・・仮にバイリンガルでもトライリンガルでも多言語間の発音のギャップ問題が解決されていなければ意味がないんだけど、とりあえず俺バイリンガルだから、と開き直るのも欧米の文化に無条件に平伏してしまう日本人には有効なテクニックである。
4.言語学の勉強をしてみる。 − 例えば通称パトワとも言われるジャマイカンクレオール語の場合、VとBの発音は日本語と同様に区別されないことがある。また、エボニクスといわれるアフリカ系アメリカ人の英語の場合は"gangsta"のように、語尾のerなどを巻き舌で発音せず、(日本語と同様に)aに置き換えて発音したりする。だから、言語学の勉強をしてそのような日本語っぽくも英語っぽくも聞こえる(かもしれない)ポイントを探してみるのも有効なテクニックの一つである。
5.日本語の方を英語っぽく発音する。 − 一部ラッパーと一部ロック系の人達が多く採用している?やり方も有効だ。日本語詞なのに、発音は英語というコロンブスの卵的発想である。アメリカのハードコアラッパーが「ビッチ」を「ビィャッチ」と発音するが如く、日本語をそんな感じで発音する訳だ。具体例を挙げると「ウォレワ、ジィエッテイ、マッケネッゼ」→「俺は絶対負けないぜ」という感じである。発音のギャップが見事に目だたなくなるという利点はあるが、何を言っているのか聞きとりズラくなる、「いわゆる系」に分類されてしまうなどの危険を孕んだ手法といえる。
いずれの方法を採用しているにせよ、レコードデビューから長く活躍しているアーティストは全員試行錯誤と創意工夫によってこの英語発音ギャップ問題を解決していると見て良いと思う。自分の好きなアーティストがどのやり方を採っているのか分析してみるのも楽しいだろう。
posted by ヒビキラー at 18:16
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